雨音のする画廊

真顔のユーモア、「ボートの三人男」



電車に乗っていて、
ごくたまにスマホじゃなく文庫本を読んでいるひとを見かけると、
「お、仲間」とか思っちゃいます。

本の好みが自分とは正反対だったりするのかもしれないが、まあとにかくです(笑)


そういえば何年も前、まだ毎日電車通勤していたころ、
しょっちゅう一緒になるひとが、
いつも精神分析の本を読んでいたなあ…
よく朝からあんな難しそうなものが読めるものだ。




私が、地域の公立図書館に通いだしたのは小学校低学年だったと思うが、
たぶんそれより先に、町内のあるお家がなさっていた私設文庫で、
本を借りて読むことを覚えたような気がする。


一階の奥の小さな部屋に、
国内はもちろん、世界各国の児童文学が集められていた。
土曜日に行ってはいろんな本をお借りして読み浸り、いろんな国の<雰囲気>に触れた気になった。
(いや、こどもだからこそ、先入観なしに雰囲気だけ感じ取れるのかもしれませんね)


どういうわけかその頃から、イギリスのお話がいちばん面白かったのだ。


イギリス発の数々の名作に共通していたのは、
身近な動植物への親しみとするどい観察、
伝統や礼儀を重んじる気持ち、

…皮肉と機知が詰まったユーモア、
そして真顔でそれをやり取りするという国民性。


もちろん当時そこまではっきり分かっていたわけがないけれど、
「ピーターラビット」に「くまのプーさん」「不思議の国のアリス」、「メアリー・ポピンズ」そのほかたくさん、
児童文学と言えどもそういった特徴ははっきりしていたように思う。


その後成長していろんな本に出会ったが、
そんな「イギリス的な本」を読むたびに、
実際には行ったこともないのに、なぜか懐かしいような、
一種の心地よさを感じるのは不思議である。



そういうイギリスらしさを直球で味わえるのは、たぶんこの一冊。




img026_20140729010437e0c.jpg



「ボートの三人男 (副題:犬は勘定に入れません)」
(1889年、ジェローム・K・ジェローム著、丸谷才一訳)



「気鬱にとりつかれた三人の紳士」ハリス、ジョージ、Jが、
犬のモンモランシーを連れて、テムズ河をボートでゆく旅に出る。

(…勘定に入ってないはずの犬がいちばん賢そうに見えるこの洒落た表紙は、故・池田満寿夫氏によるものだ)


支度をする段階でこれでもかというほどドタバタする3人と一匹、
とうぜん道中はおかしな事件の連続である。

いささかやりすぎなほどのスラップスティックなんだけれど、
全員あくまで真顔
互いに皮肉を投げあいつつ、
(語り手Jが)唐突に英国史のうんちくをはさみながら、
ボートの旅はゆるりと続く。


けっして開かない缶詰、
大失敗の記念写真、
「コミック・ソング」にまつわる過去、
凶暴な白鳥、
湯沸しを欺く方法…(笑)



それからついでに言ってしまうと、
こんな粗食の日々には、例えばフランス人や日本人はとても耐えられないのではないかと。

野菜を買い込むシーンもあるにはあるが、
ほぼ全編、冷肉やパン(とお茶、あるいはウイスキー)で済ませている。
たまに料理をするかと思えば、すごく怪しい「アイリッシュ・シチュウ」だったり。
(このあたりの事情は、林望氏のベストセラー「イギリスはおいしい」をご参照ください)


そして打ち上げは、フランス料理でワインなんです…やっぱりね(笑)





…繰り返すけれど私はイギリスに行ったことはない、
だけど心の底から「ああイギリスだなあw」という感慨がわいてくる。
そんな本です。




せせこましい通勤電車の中のひとにも、
ボートの上より、皮肉と愛をこめて(笑)





関連記事
スポンサーサイト
  1. 2014/07/30(水) 00:36:24|

プロフィール

猫足

Author:猫足
京都生まれ、本業は工芸デザイン。
なのに趣味も絵。われながら不健康だと思います。


〔筆者近況〕

先日、帰りが遅くなり急いで歩いていたら、
「あたらしい餅」
と書かれたのぼりが立っていた。

そりゃ古いよりはいいだろうけどさ、
…とよく見ると、
「みたらし小餅」だった。

こんな調子でいろいろ誤解してないか心配である。

最新記事

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (65)
絵 (65)
京都 (27)
音楽 (30)
本 (5)
服装 (5)

検索フォーム

リンク

このブログをリンクに追加する

QRコード

QR