雨音のする画廊

ある休日、紅茶と古書




先月の話になるけれど、
取引先から、このたび新たな店舗を作ったから一度見に来てくれと言われたので、
天気の良い休日に出かけた。

この日は晴れてはいたが肌寒く、「哲学の道」の桜もまだ蕾のまま。
それでも銀閣寺周辺には観光のかたが多く、
数日前にオープンしたばかりのそのお店も結構な賑わいを見せていた。


お客に紛れ込んで見てまわり、
さて職責は果たしたと気分も軽く歩き出す。


が、いかんせん寒い。少し先走って薄着にしすぎたようだ。
なにか暖かいものを飲みたい。


今出川通を西へ、ふと紅茶専門店の前を通り過ぎた。
普段はコーヒー派なのだがたまにはいいなあと引き返し、入ってみた。

「岩村紅茶」さん。

紅茶専門店というと、
ハイソなマダムが集うサロンみたいのもあるから注意を要するが(なにが)、
こちらはぐっと打ち解けた雰囲気で、
だけど本当に紅茶のエキスパートがなさってるお店である。

紅茶はすべてオーガニックで、メニューには詳しい解説も載っている。

「Rufuna」(ルフナ)というスリランカ産のお茶を頂くことにした。



DSCN1810.jpg
▲綺麗な色ですね


驚いたことにはまったく渋みがない。
メニューの解説には、「黒糖やカラメルのような香り」と書いてあり、確かにそうなのだが、
何かもっと軽い風味でなつかしいものに似ている気がして、なんとか思い出そうとした。

あ、わかった、べっこう飴だわこれ。
カラメルと成分的には一緒なんだけど、焦げてはいない感じ。

ポットにたっぷり入って、手作りクッキーもついてくるのでゆっくり楽しめます。
スフレやパンケーキのセットも美味しそうでした、
紅茶好きの方、銀閣寺方面にいらした際はぜひ。




岩村紅茶さんから2、3軒東隣に、
「古書善行堂」がある。

古書店のおおい京都で、オープンされてからまだ7年ほどとのことだが、
本好きには有名だ。
と言うのは、
「古本ソムリエ」で、古書関係の著書やコラム執筆も数多い、山本善行氏のお店だからである。

(関西のジャズ情報誌「Way Out West」にも書いていらっしゃるジャズ通でもある)


細い格子がなんとなく京都っぽい引き戸をからりと開けると、
広くはないが綺麗で整然とした書棚、
壁にはなぜかコムデギャルソンのポスター。
何人もお客さんが立っていて、じっくり本を吟味している。

私もしばらく黙って書棚を見つめたが、
ここには「きちんと選ばれた本」しかない、ということにすぐ気付いた。
古いだけの本、というのは一冊も無いのである。


そして、
古本屋さんのオーナーというと、
平積みの本に囲まれて座っていてちょっと気難しそうな、話掛けにくいイメージがあるのだが、
山本さんはまったく違っているようだった。

「平積みの本に囲まれて座って」おられるところまでは同じだが、
常連さんと楽しそうに話し、
本を購入したいちげんさんとも気軽に会話していらっしゃる。
その合間に、表にあるワゴンの、100円の文庫本一冊買ったお客にも、
笑顔で気持ちよく応対されていた。


なんかいいなあと思いつつ、書棚をさまよっていた目がレジ近くのところで釘付けになった。
内田百閒の単行本が何冊も!


もうずいぶん長く愛読していて、かなりの冊数を持っているのだが、じつは文庫本しかないのだ。

いろいろ迷った挙げ句、
1953年刊行の「無伴奏」という本に決めた。

これをお願いしますとレジで言うと、
ハンチング帽の似合う山本氏が、「百閒、お好きなんですか?」と訊いてくださった。

そこでいろいろお話ししたが、
「ぼくも個人的に集めてますよ。百閒だけは特別ですね」とおっしゃったのが忘れられない。

…いつまでもメジャーにはならないのに、
山本さんのような古書、いや本のエキスパートにそう言わしめる内田百閒。
おそろしい作家だと改めて思った。



と、山本さんが身軽く、
販売用でなさそうな棚から一冊の本を出してきてくださった。

百閒全集の一冊だが、
造りがおどろくほど豪華なのだ。
背表紙は柔らかい本革、箔押しのタイトル。
極太の繊維の入った特殊な和紙で装丁されている。
中身のレイアウトも、いかにも全集らしく、余白が優雅である。

あの借金王・百閒の、こんなにも豪華な全集本!!

つい笑ってしまうが、本革の背表紙はしっくりと手に馴染む。
…お聞きしたところやはり気軽に買える値段ではなかったが、
そんなのを気軽に触らせてもらえるのが嬉しい。



考えてみれば「ソムリエ」は、専門の知識をもって、ひとの要望にものを繋ぐ仕事。
そして、その道のたのしみを伝える仕事でもあるだろう。


ネットで目的の本を探せばすぐにヒットする時代だが、
ソムリエのいる本屋さんってなんて素敵、と思いながら善行堂さんを後にした。



外に出るとまだ明るかったが、
寒いし、なにしろ早く本を読みたかったので帰ることにした。



DSCN1812.jpg



また改めて書きたいと思うけれど、
文庫でなく、当時のままの形で読むというのはやはり格別だ。




この日の結論、
「専門家に会うのはたのしい」。

良い休日でした。











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  1. 2016/04/10(日) 22:13:52|
  2. 京都

プロフィール

猫足

Author:猫足
京都生まれ、本業は工芸デザイン。
なのに趣味も絵。われながら不健康だと思います。


〔筆者近況〕

先日、帰りが遅くなり急いで歩いていたら、
「あたらしい餅」
と書かれたのぼりが立っていた。

そりゃ古いよりはいいだろうけどさ、
…とよく見ると、
「みたらし小餅」だった。

こんな調子でいろいろ誤解してないか心配である。

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